東京高等裁判所 昭和39年(行コ)4号 判決 1965年9月30日
控訴人(原告) 原田清一郎
被控訴人(被告) 新潟税務署長
訴訟代理人 真鍋薫 外三名
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、「原判決を取消す。控訴人が昭和三六年七月一日被控訴人に対し控訴人の昭和三五年度所得税についてなした修正確定申告及び被控訴人が同年一一月二四日控訴人に対してなした更正処分による課税はいずれも無効であることを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は主文第一項同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張は、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。
(証拠省略)
理由
控訴人が被控訴人に対し別表記載のとおり確定申告及び修正確定申告をなし、被控訴人が右の修正確定申告に対し別表記載のとおりの更正(減額)をしたことは、いずれも、当事者間に争のないところである。
そこで、先ず、控訴人の修正確定申告の無効確認を求める訴の適否について考察する。
所得税法における申告納税の制度は、納税義務者をして、自己の納税義務の具体的内容を決定の上、これを税務官庁に申告せしめ、その申告に係る納税義務の実現を企図するものであつて、納税義務者は右の申告行為により具体的な租税債務を負担するに至るのであり、換言すれば、この申告行為は納税義務者と国との間の具体的な法律関係――租税債権債務関係――を発生せしめるための一の法律要件をなす前提事実にほかならないのである。
ところが、法律関係そのものの存否ではなくして、法律関係発生の要件をなす前提事実にとどまるものの有効無効の確認を求める訴は許されないものと解すべきであるから、本件修正確定申告の無効確認を求める訴は不適法といわなければならない。
なお、右の申告行為は、公法関係における行為ではあるが、それは一私人のものであるから、行政事件訴訟法第三条にいう処分(行政庁の処分その他公権力の行使に当る行為)といえないことは勿論であり、従つて、本件訴をもつて右同条にいわゆる無効等確認の訴又はこれに準ずるものとして適法であると解することはできない。
もつとも、本件訴を現在の法律関係の存否に関する租税(所得税)債務不存在確認の訴と見る余地がないわけではないけれども、しかし、そのように解しても、かかる訴は当該法律関係の帰属主体である国を被告とすべきであるから、結局、被告を誤つた不適法のものたるを免れない(附言するに、前記のように申告行為は行政事件訴訟法にいわゆる処分ではないから、本件は、同法第三八条、第二一条の規定により被告の変更をなしうる場合に該らない)。
次に、控訴人の更正処分の無効確認を求める訴の適否について検討する。
被控訴人のなした本件更正処分は控訴人のなした修正確定申告の課税標準、税額を減額したものであることは冒頭記載のとおりであるから、控訴人が不利益を受けたとすれば、それは本件修正確定申告によるものであつて、決して、本件更正処分によるものではない。従つて、控訴人において、別途、本件修正確定申告に誤があることを理由として、右申告に基き負担すべきものとされる租税(所得税)債務額を争うは格別、本件更正処分に対し不服をいうべき理由は毫も存しないから、その無効確認を求める訴もまた、不適法のものといわなければならない。
以上要するに控訴人の本件各訴はいずれも不適法のものとして却下を免れず、従つて、原判決は結局相当であつて、本件控訴は理由がない。
よつて、民事訴訟法第三八四条第二項、第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 奥野利一 野本泰 真船孝允)
(別表省略)